RockClimbing004に『転がる大根』が掲載されていました。
『転がる大根』を登ったのは30年くらい前でしょうか?平山君が小川山にこもった翌年の夏。つまり、ヨーロッパに旅立った夏の小川山。あの夏は天候不順で全く登れませんでした。
毎日、雨がブルーシートを叩く音で目覚め、憂鬱な日々をすごしていましたが、やがて怒りが爆発。雨の野郎、人間をなめんぢゃねえと『転がる大根』にタープをかけました。
で、タオルで拭きながらユマールでトライ。『転がる大根』(5.12C)はあの夏の唯一の成果だった気がします。三ツ星のリードルートでした。
その後、ハンガーがはずされたそうです。あれはそのままなんでしょうか?はずすときに初登者の許可を得たのでしょうか?
もし初登者の許可を得ていないなら、その行為は明らかに間違いです。
初登の原状を意図的に変えるときは初登者の許可が必要
まず、ぼくの課題著作物論に照らしあわせると『転がる大根』は著作物ですから、著作者、つまり、初登者の承諾なしに勝手にハンガー外してボルダーにするのは、同一性保持権侵害となる可能性大です。事後承諾と言うのもありますが…
「課題著作物論」なんて、宗宮さんが勝手に唱えている仮説で、裁判所はもちろん学会でも認められていないから、無意味だと言う人には ロイヤルロビンスの初登優先原理 を紹介しておきましょう。以下、『ロイヤル・ロビンスのクリーン・クライミング入門』(森林書房, 1977)より引用します。
ルートのハンガーを勝手にはずしたら、ロビンスの初登優先原理違反
「登山倫理で最も考慮の対象とすべき命題は、既成のルートはできる限り初登のときの姿のままで保護し、あとの者が楽しめるようにしておくこと、ということに尽きる。」
「ルートはいわば芸術作品であり、初登者の創作物である。そこに新たにボルトを打ちこみ、やっかいなルートに仕立て上げることは、初登者を侮辱するのみならず、初登者のとおりにそのルートをトレースしたいと思っている者の楽しみを奪う行為だ。これは他人のものした絵や詩を勝手に「改訂」する行為に等しい。へたでもいいから自分の絵や詩を発表するほうがましというものだ。」
つまり、ロビンスの主張は、てっとり早く言うと、早い者勝ちということです。
確かに乱暴といえば乱暴な主張です。ぼくもそう思います。初登優先原理は最悪の解決法だ、と。ただし、それは、これまでに主張されたクライマーのいろいろな主張を別にすればということなのです。
より良いスタイルで登れば無断改変オーケー論は誤り
ロイヤルロビンスの初登優先原理については、重要な論点があります。それは、ロビンスは自らその禁を破ったということです。何事にも例外があるという理由で。この大きな過ちについてはまたいつか。
もう一つ言及しておこうと思います。初登者の課題を勝手に改変する行為を正当性するために、よく言われる「クライミングの進歩and/orより良いスタイル」論は、他者の作品に手を加える理由付けとしては失当です。
初登者の解釈が気に入らなければ、その「駄作」を登らなければいいのではないでしょうか?
他人のルートのハンガーをはずして、作品を作り変えてしまう必要はないはずです。他の岩に傑作を作ればいいのですから。
もし課題は作品だという考えに同意するのであれば、初登優先原理を例外なく遵守することが最も有益なのだと思います。
このあたり、いつか詳しく述べたいと思いますが、『転がる大根』のハンガー撤去事件について興味のある方は、ロクスノNo.14をどうぞ。