本日は、次のアメリカVAILのW杯での個人スポンサーロゴ掲出の問題を考えてみます。
そのために、まず、八王子W杯を振り返ることにしましょう。八王子W杯で、協会は、個人スポンサーロゴ掲出の禁止を選手に通告したそうです。この通告は、選手の肖像権は協会が一括管理しますと一方的に通告した場合に比べると、協会側に一定の合理性があります。なぜなら協会はIFSCと共にこの大会の主催者だからです。
なぜ主催者は、出場する選手に「こうしなさい、とか、これはダメです」とか強制できるのでしょうか? その法的根拠は何か? これが、今回の核心です。
結論から言うと、2つ理由があります。1つ目は契約です。選手は、大会前に八王子W杯参加にあたって、「八王子W杯についての協会の大会規定を守ります」と、事前に、大会規定を承諾しているように思います(登録選手規定など)。であれば、契約は誠実に守らないといけませんから。
もう1つは、お金を出して会場を借りたのが主催者の協会だからです。これにより、協会は大会期間中はその会場の施設を管理する権利(施設管理権)をゲットしています。この権利を根拠に、会場への入場と退場をコントロールできるのです。
つまり、「あなたは、登録選手規定を破った。緊急理事会を開いた結果、あなたを退場処分にすることを全員一致で決議しました。今から施設管理権を行使します。会場から退場してください」と伝え、ガードマンを呼んで、選手におひきとりいただくことが可能となるわけです。ジムのオーナーが、ルールを守らなかったビジターの入場を拒否したり、見学者に退場を強制できるのも同じ理屈です。オーナーには自分のジムの施設管理権がありますから。
「スポーツイベントの会場となるスタジアムにおいては、主催者がスタジアムを賃借等することで施設管理権を確保できるため、主催者がコントロールすることが可能である」(標準テキスト スポーツ法学)
しかし、次回のアメリカ・VAILのW杯は協会の主催ではないようです。主催はUSA Climbingです。したがって、協会にはアメリカW杯会場の施設管理権はない。ということで、協会が、ない権利を根拠に、個人スポンサーロゴを掲出した選手の入場を阻止したり、退場にすることはできません。
アメリカW杯会場の施設管理権をもっているのはIFSC /USA Climbingです。ですから、IFSCの規則の広告規定を守ればそれで必要にして十分だ。ぼくはそう考えます。
まとめると、次回のアメリカW杯での個人スポンサーロゴ掲出について、協会が施設管理権を根拠にして、選手に注文をつけることはできないということになります。
ついでに、IFSCの広告規定を見てみましょう。 既にご報告したように、IFSCの広告規定は、面積についての規制はありますが、個人スポンサーロゴ掲出の禁止ルールはありません。というか、IFSCの方針は、少しでも多くのスポンサーをイベントに参加させる、です。したがって、規定に反しない限り、個人スポンサーロゴはOK、望むところなのではないでしょうか?
では、契約はどうでしょうか?
例えば、仮に、ある選手とスポンサーA社が、「W杯ではスポンサーA社のロゴのみを掲出する。他の個人スポンサーのロゴは掲出しない」という契約を結んでいたとします。この場合は、うっかり、個人スポンサーのロゴを掲出しちゃったら、その選手はA社との契約を破ったことになりますから、A社から制裁を受ける可能性があります( IFSCの規則には違反していないのでIFSCからの制裁はありません)。
というわけで、選手の方は、自分がスポンサーとどんな契約をしているかをチェックする必要があります。
もちろん、協会との間の契約や提出した承諾書がある場合は、その内容を遵守しなければなりません。そうしない場合は、不利益処分and/or損害賠償請求を受ける可能性が発生することを視野に入れなければなりません。
一方、上記の契約やら承諾書がないなら、先に書いたように、IFSCのルールを守ればそれで必要かつ十分だと、少なくとも、ぼくは思います。つまり、次回のアメリカW杯での個人スポンサーロゴ掲出は、主催者のIFSCの広告規定の範囲であれば、大丈夫ということです。
これを協会の側から見ると、次回のW杯で、協会が個人スポンサーロゴ掲出を制限するには、例えば、個人スポンサーロゴは出しません、という選手の承諾を取り付けることが必要不可欠ということです。
以上、次戦以降のW杯での個人スポンサーロゴ掲出の法的問題についての私見を述べました。間違いがありましたら、ぜひご指摘下さるようお願いいたします。
なお、今回の話をクライミングジムにたとえておきます。そのほうが、わりやすそうなので。
ジムAでは液体チョーク禁止です。にもかかわらず、ジムAに登りにきた宗宮さんは、「オレは液チョー使いたいんだ。ルールなんか知ったことか」と、液チョーを使って登ります。怒ったジムAの店長は、宗宮さんをジムAから退場させました。これは納得できるケースです。
一方、以下は納得できない、むちゃなケースです。
液チョー禁止ルールに違反しジムAを退場させられた宗宮さんはジムBに行きます。 なぜなら、ジムBでは液チョーOKだからです。 ちなみに、ジムBとジムAは系列店で、ジムBが本店、ジムAは支店という関係にありますが、本店Bは昔からの伝統で液チョーOKなのです。
さて、 宗宮さんが液チョーをつけてジムBで登っていたら、ジムAの店長が研修のためにジムBにやってきました。で、液チョー使ってBジムを登る宗宮さんを目撃したとします。
ジムAの店長は「また液チョー使った」と、宗宮さんをジムBから退場させることはできるでしょうか?
できないはずです。
もしそんなことしたら、本店Bの店長が仰天するでしょう、「なに考えてるんだ。ここの店長はオレだ、君に、宗宮さんを退場にする権利なんかない。第一、ここは液チョー禁止してない!」と。