ボルダリング中に発生した落下事故について 2015年初冬に豊田の岩場でのボルダリング中に発生した落下事故について、当事者の方に事故状況を直接お聞きすることができました。
事故情報の開示を打診したところ、今後の同様な事故発生の防止に資するのであれば、ぜひ開示して欲しいとのことでしたので、今後の事故防止に必要不可欠なデータに限定して、ご承諾の元に、本blogで開示することに致します。
以下は、当事者及び現場に居合わせた方から、私が聞き取った内容を私の責任でまとめたものです。従って、問い合せやご意見につきましては私に直接メールして頂くようお願い申し上げます。
2015.12.31記 宗宮誠祐
【事故日時, 場所, 課題名 】
2015年初冬・14時半頃, 豊田・古美山リーチロック・ チー(難易度b)
【クライミング歴等】
クライミング歴2年半(外岩1年)。 外岩最高グレード d
【入山形態&「課題「チー」トライ前の状況】 ︎
13時過ぎ頃に古美山に入山。非単独。体調は良好。c課題を3本程登った。「チー」は、この日の8本目としてトライした。
【課題「チー」の状態】 岩の状態は良好。
【装備】
シューズはインスティンクト(レース)。履き始めて︎半年くらい。 マットはボルダーマット(180cm×90cm×9cm)1枚とバスマット1枚を持参。ボルダーマットを敷いた。スポッターは1名。
【落下状況】最後の乗り越しまでは順調に進んだ。しかし、最後のマントリング時に、右足がフットホールドからはずれて墜落した。ただし、墜落時の詳細は記憶にない。墜落したときの足の痛みで我に返った。あごに傷があった事から推測すると、右足が滑った時にあごを岩にぶつけ、一瞬くらっとして墜落し、マットのない部分に左足踵から落ちたようだ。
【搬送までの経緯】左足踵が変形しているのが目視で判断出来る状態であり、痛みは起き上がれないくらいの激痛で骨折を自覚したので119番通報を依頼した。
居合わせたクライマーの方々から駐車場までの搬送を申し出て頂いた。しかし、起き上がれないくらいの激痛だったので消防の到着を待つ事をお伝えし、 マット上に寝た状態で救助を待った。 ︎
15時頃、消防到着。ストレッチャーにより墜落場所より駐車場に降ろされた。駐車場からは救急車で病院に搬送された。
【診断結果】 踵粉砕骨折(要手術)
【コメント(本人から聞き取り等を元に宗宮がまとめたもの) 】 多くの方に迷惑をかけ猛省している。今後、同様な事故を防止するための一助となればと思い事故状況を開示することにした。事故時に居合わせた方々には、励まされたり、手助けを申し出ていただいた。ほんとうにありがたかった。言葉にできないほど感謝している。心から御礼を申し上げたい。
外岩ボルダリング時は脳内スイッチの切り替えをアウトドアスポーツは生命身体の危険を内包したスポーツです。ぼくの個人的経験に照らすと、クライミングに内在する当該リスクは低い方ではないと感じます。特に、ルートクライミングは1つのミスが死に直結するスポーツです。実際、直近の10年を振り返っただけで、複数の死亡事故例が想起されます。
ボルダリングについては、少なくともぼくは死亡事故例を知りません。一方、ねん挫・骨折例は頻繁に耳にします。
そんなわけで、外岩でボルダリングをするとき、ぼくは以下のような事を意識して登っています。
・登る前に下降路を確認しておかないとハマる。
・ジムに比べて、マットのない場所に着地する可能性が大きい。第一、マットはジムのそれに比べて格段に小さく薄い。
・着地点は平らとは限らないし、石や木の根が埋まっているかもしれない。立木もある。
・スボットは完全ではないし、予想外の方向に飛ばされることもある。
・ホールドはよく欠ける。
・着地点が悪かったり、高いな、と感じたら、TRで登ろう。
マットのない時代に外岩でクライミングをはじめ何回も地面に直接落ちて、痛さに転げ回ったぼくは、言わば「落ちると痛い目に合う」と身体が勝手に覚えていて、脳の一定部分は、常に着地場所や落下時のリスクを自動的に演算してくれているように感じます。
一方、ジムでクライミングをはじめた方は 、ぼくとは逆で、「落ちても意外に大丈夫」と勝手に身体が覚えているために、脳は、室内と同様に、すべての能力を登ることに集中してしまうのかもしれませんね。
ですから、室内でクライミングをはじめた方は、切り替えが大事です。つまり、(今日はジムではない。外だ。外だ。)と、強く、強く、強く、自分に言い聞かせる必要があるようです。
アウトドア活動のリスクと自己決定権なお、ぼくは、安全の確保がマットでは不十分と感じた場合は、ロープをセットしてTRでトライすることをいつも検討しています。実際、ポールポジションやダイヤモンドスラブにはTRをかけました。
たぶん、ぼくの主催しているスクールで、ポールポジションとダイヤモンドスラブにボルダーとしてトライしてもらうことはないと思います。古美山のリーチでも、ケースによっては、ぼくはTRを選択します。
どの程度までリスクを許容するかは自己決定権の範疇に属します。他人に強制されるものではありません。自己決定権は「人権」の根幹をなすもので、その行為はその人だけの厳粛な作業です。
もちろん忠告は可能です。命がけの批判もあってよいと思います。懇願もOKです。しかし、他人が何かを「強制」することはできません(その岩の所有権、貸借権、管理権などがあれば話は別ですが)。
強制は、他者による不当な干渉であり、大げさに言えば、人権の侵害と感じます。ですから、単独で、マットもスポットも拒否し、ハイボールにトライするという自己決定にも最大限の尊重がなされるべぎと思います。
もしそのようなクライミングを目の当たりにする機会があったら、ぼくは、一人のクライマーとして、強烈な羨望と嫉妬の感情を覚えることになると感じます。
では、来年が、皆さんにとって、素晴らしい一年でありますように!!
- 2015/12/31(木) 11:00:05|
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